熱帯夜

熱帯夜 (角川ホラー文庫)
曽根 圭介
角川書店(角川グループパブリッシング) (2010-10-23)
売り上げランキング: 278,502

猛署日が続く8月の夜、ボクたちは凶悪なヤクザ2人に監禁されている。友人の藤堂は、妻の美鈴とボクを人質にして金策に走った。2時間後のタイムリミットまでに藤堂は戻ってくるのか?ボクは愛する美鈴を守れるのか!?スリリングな展開、そして全読者の予想を覆す衝撃のラスト。新鋭の才気がほとばしる、ミステリとホラーが融合した奇跡の傑作。


初・曽根作品。
三篇ともひじょうにテンポよくさらっと読めてしまうのだけど。

いやぁ、濃いわッ!濃い。

真っ黒なタールの中にずぶずぶと浸ってあちこちにいろんなものがへばりついて
洗っても洗ってもぬるぬるべとべとが取れない感じでどっぷりと気が滅入る。
読み始めから想像する展開と着地点が見事に違っていて、なんて身も蓋もないんだ…。
あてられた毒がキョーレツでくらくらする。

まあどちらかというとSF的な怖さなのよ。
ブラックなユーモア満載ですごくおもしろかったんだけど、なんかこう胸の中で糸引いてる感じ?

ああ、そうか。そうだよねえ。食べちゃうよねえ。
可哀想だけど、食べたらおいしいよねえ。鶏でも仔羊でも。
所詮そんなもんだよねえ。


ちなみに、わたしはお肉が苦手なので愛ちゃんと同じ末路をたどりそうでビビります。
まあ食べたいくらい愛しいってことで!
つうか、愛する人になら食べられてもええかな、という気はします。(狂ってる?)

Posted by K@zumi

夏を殺す少女

夏を殺す少女 (創元推理文庫)
東京創元社 (2013-08-30)
売り上げランキング: 6,928

酔った元小児科医がマンホールで溺死。市会議員が運転をあやまり事故死。一見無関係な出来事に潜むただならぬ気配に、弁護士エヴェリーンは深入りしていく。一方ライプツィヒ警察の刑事ヴァルターは、病院での少女の不審死を調べていた。オーストリアの弁護士とドイツの刑事の軌跡が出合うとき、事件が恐るべき姿をあらわし始める。


なんて疾走感のあるミステリ。そしてよく練られたストーリー。
やー、がっつり楽しませてもらいました。

お互い異なった不審死を調べる女弁護士と落ちぶれ刑事。
畳み掛けるような展開で次々に謎が提示され、
苦痛と憎悪に満ちたとても痛々しいお話ではあるものの
翻訳もイイ感じなのでするすると読めていく。

かなりぶっ飛んだ捜査(免職もんやで!)を重ねる彼らの軌跡がようやく出会い、
おぞましい事件の全貌が明らかになったとき
めまいがするほどの人間の業の醜悪さに反吐がでる。

極上のサスペンス、堪能しました。


物語とは関係ないけど、エヴェリーンがパトリックと云うたびに
『メンタリスト』の“ジェーン”が思い出されて、
頭のなかがサイモン・ベイカーのとろける笑顔(めちゃキュート!)でいっぱいになった。
そうしたら当然リニーは“リズボン”に変換されてしまって
ちょっとおかしな具合になったりと……か?

Posted by K@zumi

虹の歯ブラシ 上木らいち発散

虹の歯ブラシ 上木らいち発散 (講談社ノベルス)
早坂 吝
講談社
売り上げランキング: 73,633

上木らいちは様々な客と援交している高校生で、名探偵でもある。殺人現場に残された12枚の遺体のカラーコピー、密室内で腕を切断され殺された教祖、隣人のストーカーによる盲点をつく手口―数々の難事件を自由奔放に解決するらいち。その驚くべき秘密が明かされる時、本格ミステリはまた新たな扉を開く!


上木らいち再び。援交女子高生が探偵役という不謹慎極まりない設定。
しかも未成年の売春が発覚しても生安に引き渡さんとか、あかんやろ捜一。まずは保護や!
と、どーでもいいところにつっこむ。

それにしても「らいち」という少女の実体がますます分からなくなった印象。
いろんな彼女がいて掴みどころがない。
『青』のくだりでの「教祖」の正体には驚愕。ンなあほな。
“教祖様のほうが『いかにも』って感じ”ってセリフが笑かす。
あとヤクザってなんでいつも関西弁なんやろ?とかこれもどーでもいいところにつっこむ。


こういうお色気ミステリを読んでると、キャラや設定などはまるで違うけれど
<トルコ嬢(←死語か)モモ子シリーズ>をふと思い出してなつかしくなっちゃう。
モモ子が行為の最中に客から証言を聞きだすシーンでは
いろんなアクロバティックな体位が壁に映る影で表現されていて、
ふたりの妙にビジネスライクな会話とコントみたいな演出がすごくおもしろかったナ。

Posted by K@zumi

偽恋愛小説家

偽恋愛小説家 (朝日文庫)
森 晶麿
朝日新聞出版 (2016-07-07)
売り上げランキング: 300,616

晴雲出版からデビューした恋愛小説家・夢宮宇多と担当編集者の月子は、「シンデレラ」のようなエピソードを持つ女性を訪ねることになる。話を聞くうち、夢宮は彼女の恋物語に隠された恐ろしい“真実”に気づき…。おとぎ話に秘められたビターな恋と謎を読み解く連作ミステリ。


乙女がお伽噺に込めた夢や憧れをケンモホロロに打ちくだき、
そのうえ繰り広げられるのはけっこうな男女のドロドロ愛憎劇だったりするのですが
これがフシギと爽やかで、洗い立てのコットンシャツのような読み心地。

有名な『眠り姫』や『人魚姫』などの物語もアプローチの角度を変えることで
別の側面が見えてくるおもしろさ。
それが人間の暗部に渦巻いている負の感情とうまく合わさって、
甘くて残酷で小粋なミステリへと効果を発揮しています。

またラストで明かされる“あのトリック”にはまったく意表を突かれて
しばらく頭がついて行かなかったわン。



これが日本の民話・童謡が題材だと、あんな風なスタイリッシュな物語にはならず
ねとねとぎとぎとの血みどろ粘着ホラーになってしまうんだろうナ。

Posted by K@zumi

人間の顔は食べづらい

人間の顔は食べづらい
白井 智之
KADOKAWA/角川書店
売り上げランキング: 251,855

安全な食料の確保のため、人間のクローンを食用に飼育するようになった日本。クローン人間の飼育施設で働く和志はある日、除去したはずの生首が商品ケースから発見される事件の容疑者にされ!?異形の世界で展開される精密でロジカルな推理劇。第34回横溝正史ミステリ大賞最終候補作


わたしはダイスキな作家さんが絶賛されているものにとことん弱い。
ほとんど無条件で読む、といっても云いすぎじゃないかも。まったくもってかなしいミーハー気質。

こちらはタイトルからしてちょっと(いや、だいぶ)変態ぽいし、文中に容赦なく繰りひろげられるかなりのグログロ描写におえっぷとなりながらも、なんていうか読んでるうちに人間て慣れるものなのね。フシギとそうでもなくなってきた。コワいわー。
それにしてもこのトンデモな舞台設定はほんまあり得ない。頭オカシイ。

新型ウイルスによって家畜が食べられなくなった人類が苦肉の策で採用したのが、食用に希望者のクローン人間を作成し飼育することが可能になる「食人法」というおぞましい法律。
しかも人間の肉は頭部以外はすべて“高級珍味”ってことで、ユーザーのほとんどは先進国家の富裕層に限られるという倫理的にも道徳的にもむちゃくちゃ。吐き気がするほど悪趣味で皮肉たっぷり。
残虐な描写が死ぬほど出てくるわりにはホラーなイメージはそれほどなく、むしろ本格ミステリの色合いが濃い稀有な作品ともいえると思う。ただし表現はすこぶる汚らしいので、読む人は確実に選ぶだろうケド。

探偵役がころころと入れ替わっては退場し、その度に押し寄せるミスディレクションの嵐にも興奮したナ。
伏線の張り方も気が利いていて、解けるようで解けきれないギリギリの謎がたまらなく快感。ぶっ飛んだ世界観と新人さんらしい挑戦的な小説で、今後の作品にも大いに期待したいと思う。


ネタバレなのでちょっと反転しますね。
由島由紀夫っていう名前もアレだけど、序盤から意味深な登場でてっきり物語のキーマンだと思っていた金髪青年がアッサリ退場したのがものすごく意外だった。「えええ゛っ……?」っていっしゅん空目した。
クローンが登場するってことなのでトリックは入れ替わりなんだろうと承知していても、最後でアイツとアイツが手を組んでいたことにはまったく気づかなかったわ。ちっ。やられちまったぜ!


Posted by K@zumi

人形はなぜ殺される

人形はなぜ殺される 光文社文庫
光文社 (2009-06-26)
売り上げランキング: 57,551

日本アマチュア魔術協会の新作発表会で、小道具の人形の“首”が盗まれた。数日後、成城のとある一軒家で発見された首のない死体の横に転がっていたのは、盗まれた人形の首だった。被害者・京野百合子の義理の妹・綾小路佳子は事件の真相究明を、探偵作家の松下研三とその友人である名探偵・神津恭介に依頼するのだが、再び人形を用いた殺人予告が届くのだった…。本格ミステリーの古典的名作。


東京大学医学部法医学教室助教授にして名探偵。6ヶ国語を操り、とおおおってもハンサムで独身、おまけにピアノの腕前もプロ級。という嫌味なプロフィールが影響しているのかいないのか。
明智小五郎、金田一耕助、と並んで日本の三大探偵のわりにはイマイチ影の薄い感が否めない神津恭介。
数々の作品がTVドラマ化され、複数の俳優さんが彼の役を演じられていますよね。
わたしがいちばん馴染み深いのは近藤正臣さんかなー。クールで気障でハマり役だったと思います。

実は原作を読むのはこれが初めてだったのですが、たいへんおもしろく読ませていただきました。
ええ、これぞ正しい昭和の探偵小説の金字塔。妖しくて怪しくてアヤシスギルッ♪♪♪(じたばた)
それは、頬いっぱいに髭を生やした正体不明の彫刻家であるとか、王妃アントワネットの衣装をつけギロチンで首を切られた美女であるとか、列車に轢断された無惨なマネキン人形であるとか、「ひひひひひ」と気味悪く笑うせむしの詩人であったりとか、黒いミサとか謎の魔術師軍団だとかそりゃあもうマニア垂涎ものの趣向がぎゅうぎゅうとすき間なく詰め込まれています。

そんな怪奇で悪魔的でオカルティックな舞台装置に加え、綿密に計算しつくされた堅牢なロジック。
意識の盲点を突くまさに魔術のようなトリックと、大胆不敵なアリバイづくり。
さすがの天才、神津恭介もさんざ振り回され疲労困憊のうえ最後までかなり手こずらされたご様子。
また、こしゃくな犯人にまんまと出し抜かれ「僕ともあろう者が……」なんてめちゃ上からなセリフがスマートに似合うのは、この神津恭介か『秘密』の薪室長くらいのものでしょう。ハイ。

そしてタイトルにもなっている “なぜ人形は殺されたのか?”
なるほど、これはトリックにおいてちゃんと意味のある行為だったのか!うーん、お見事です。

ぶっちゃけた話、犯人の予想はなに気についちゃうんですけど――つっても推理ではなくてあくまで勘なんですが――文中に執拗いくらいに出てくる『魔術師が右手を出したら左手を見よ』や『あるといわれたらないと思え。ないといわれたらあると思え』という、ミステリ界ではもはやテッパンな線からの、“ちっとも犯人らしくない描写のわりにはポイントポイントでさり気なく事件に係わっている人物”でいくとある程度の当たりは付いちゃうわけです。
なので第四幕でみごとその人物が表舞台に登場した時は思わず「やりぃ」と思ったなー!o(-- ) ググッ

それにしても最後まで気になっていた生首の処理がなんとあんなことに、、、
ああ、まさに知らぬが仏とはこのことね。

神津恭介シリーズにして最高傑作の呼び声高い作品、堪能しました。

Posted by K@zumi

のぞきめ

のぞきめ (角川ホラー文庫)
三津田 信三
KADOKAWA/角川書店 (2015-03-25)
売り上げランキング: 17,285

辺鄙な貸別荘地を訪れた成留たち。謎の巡礼母娘に導かれるように彼らは禁じられた廃村に紛れ込み、恐るべき怪異に見舞われる。民俗学者・四十澤が昭和初期に残したノートから、そこは“弔い村”の異名をもち“のぞきめ”という憑き物の伝承が残る、呪われた村だったことが明らかとなる。作家の「僕」が知った2つの怪異譚。その衝撃の関連と真相とは!?何かに覗かれている―そんな気がする時は、必ず一旦本書を閉じてください。


読んだ。
想像通り、安定の怖さ。一気には読まず、しおりを何度も挟みちょっとずつちょっとずつ読む。
これがわたしの三津田ホラーのスタンダードな読み方。
登場する作家というのはモロ三津田さん本人を指してるとおぼしき記述があり、またしても実録風で始まるホラーで否応にも期待はタカマル。映画化もするんだし。

お得意の民俗学を通じたホラーとミステリとの禍々しい融合。
とんでもない怪異を民俗学的に解釈して、現象自体を「しかるべきもの」として解説し納得させていくところが、とても奇妙な感覚がするのですよね。相変わらず。
「式を打つ」といいますが、まさしく「式」に対しての答えが導かれる感じが心地いいのか悪いのか。
最後に四十澤ノートについての作家なりの謎解きが用意されますが、これがじゃっかんの置いてけぼり感があってスッキリとはいいづらい。まさにそれを狙っていたのかもしれないけれど。
説明のつかない部分が残るからこそ“怪異”であって、己をこれほど強く引き付けるものであるのだ、と。

ただ『厭魅』や『首無』なんかを読んでしまった身としては、正直物足りない気はしました。端的にいうととても地味。最恐の物語というよりは、狐に化かされたようなぼんやり感だけが残ったように思う。よく思い出せない、あれはなんだったんだろう、という感じの。
それは視線に対する恐怖や暴力性について、わたしがただ鈍感だったせいかもしれないのだけど。
また三津田ミステリの醍醐味は、ラストのめくるめくミスディレクションに酔いしれることなんじゃないのかな?とも思うわけで。いや、そもそもこちらはミステリじゃないのか?うーん。びみょう。

あと「のぞきめ」という存在について。わたしは民俗学についてまったく明るくないのでわからないのだけど、この手のファクターはA氏やO氏の物語にも登場するのである意味その世界においてはスタンダードな存在なのだろうか。


ところで話はすこし脱線するのですが、「序章」の部分で作者の云う

 ああ怖かった……と言えれば、それで満足する。その話に解釈などは少しも求めない。


というくだりが、わたしの映画を見る時のスタンスとすこし似ていて親近感を覚えました。映画については(語弊があったらごめんなさいだけど)「ああ、おもしろかった。ほな次いこか」ってな感じの作品がつまりはとてもスキだ。多くを求めないし必要以上に感動とか感激とか持ち込まないようにあえてしているところがある。いい意味であとに何も残らないような作品が好きなのだ。ハイ。

Posted by K@zumi

二階の王

二階の王
二階の王
posted with amazlet at 16.01.13
名梁 和泉
KADOKAWA/角川書店 (2015-10-30)
売り上げランキング: 153,260

東京郊外で両親と暮らす朋子は、三十歳過ぎの兄が何年も二階の自室にひきこもっていることに悩んでいた。そのころ、元警察官と六人の男女たちは、考古学者の予言を元に、人々を邪悪な存在“悪果”に変え世界に破滅をもたらす“悪因”の探索を続けていた。“悪果”を嗅ぎ分ける男・掛井は、職場で接点がある朋子への想いを募らせている。ある日、仲間の一人が急死し、身近に怪しい気配が迫り始めて…。


ああ、この作家さんとは相性が悪かったのだなあ。と思いかけていました。

というのも、とてもおもしろいストーリーであるにもかかわらず意外に手こずっている。
三日たってもページ数はようやく半分を超えるところで、しかも未だに世界観に入り込めない。
決して読みにくいわけではないし、じっとりと流れるS.キングばりの不穏な空気はなにより大好物のハズなのに。

困ったなあ。と思っていたら、三分の二くらいにさしかかるころから物語は加速をつけだし怒涛のラストへと疾走してゆく。選評で貴志さんが「『悪因研』の活動は、全て妄想であったら、かなり怖いサイコホラーになっていたはず」と書かれていますが、まさにそうなんです。そう思います。もしすべてが彼らの妄想だったら、、、なんて思うとちょっとメンタル的に耐えられないくらい怖い。
そうじゃなくて常套な線で結末を見られたことに密かに安堵しています。いや、マジで。

同じく選評でユキトが「クトゥルー神話的とも云えそうな」と書いてらして(クトゥルー神話って良く知らない。クトル―ちゃんなら知ってる)ソレとはちょっと違うケド、ラストシーンでは塚本さんの『ヒルコ 妖怪ハンター』のごちゃごちゃ感をなんとなく想起しました。ついでに(まだかっこいい頃の)ミッキー・ロークの『エンゼル・ハート』もほうふつ。まああちらはモチーフがブードゥー教だけど…
そして音楽の使われ方がとても効果的で、奇しくも『悪魔を憐れむ歌』という邦題のホラー映画がありますが(こちらは内容としてはまったく別物)どちらも同じく音楽に対する演出が秀逸でありました。

そして「王」の「兄」の正体は、、、そういうことだったか!

「ひきこもり」の人間を抱える家族の苦悩や葛藤と、破滅に向かう世界を救うために立ち上がった「元ひきこもり」の若者たちの苦悩と葛藤。各々の待ったなしの日常を打開すべく、どれほどの決断と勇気を欲したであろう彼らの戦いにエールを送らずにはいられません。

危険な幻覚や妄想を抱えているとして統合失調症と診断され、あちこちで問題を起こしては警察に保護され、どれだけ叫んでも聞き入れてもらえず、周りからは白い目で見られ家族からは見放され、ついには世間から完全に孤立してしまう。でも彼らの云っていることがほんとうは間違っていなかったとしたら…
ホラーやSF界においてはもはやテッパンな設定ですが、そこに社会現象にもなっている「ニート」や「ひきこもり」が実は特殊な能力者であったらというユニークな発想を加え、そして登場する「悪因」や「悪果」など我々が対峙すべき邪神は、荒んだ現代にはびこる病理そのものであるともいえるのでしょう。

Posted by K@zumi

鵺の家

鵺の家
鵺の家
posted with amazlet at 16.01.05
廣嶋 玲子
東京創元社
売り上げランキング: 314,141

茜は跡継ぎ鷹丸の遊び相手として、豪商天鵺家の養女となる。数々の謎めいたしきたり、異様に虫を恐れる人々、鳥女と呼ばれる少女の姿をした守り神。奇妙な日常に茜がようやく慣れてきた矢先、屋敷の背後に広がる黒羽ノ森から鷹丸の命を狙って人ならぬものが襲撃してくる。それは、かつて魔物に捧げられた天鵺家の娘、揚羽姫の怨霊だった。このままでは鷹丸が犠牲になってしまう!一族の負の連鎖を断ち切るため、茜は魔物に立ち向かう決心をするが…。


ずっと児童文学を書かれていた作者の初の大人向け小説、なのだそう。

たしかにページからねっとりと流れだす不穏で不気味な雰囲気は、古く奇妙な因習にとらわれたお屋敷に住まう人々がおりなす、欲と恐怖と怨念に彩られた豪奢でダークな和製ゴシック・ホラーだけれど、でもそれほど暴力的で目を覆うような残虐な描写はないし、やはり児童文学の世界出身のかただけにどちらかといえば良質なファンタジーの色が濃い作品かもしれないので、中学生くらいの子なら余裕でOKな印象。
またとっても後味の良い美しいエンディングなので、ホラー初心者のかたにも最初の一冊にちょうどイイかもしんない。

テーマにはひじょうにシンプルであるがゆえのうち鳴らす警鐘には奥深いものがある。
そしてどんなことがあっても諦めてはいけないという祈りにも似た清らかな願いを感じる。

期待してもいいのではないだろうか。

くりかえしくりかえしTVから垂れ流される沈痛なニュースの数々。
親から信じられないような虐待をうける子や、あるいは無視という名のネグレクト。
やむことのない陰険ないじめに苦しむ者、わが身かわいさに見て見ぬふりを決めこむ者。
また己の利益のためには問答無用で他者を自らの贄に利用してなんら構わないとする競争原理。
そして、無知という罪。

幼い彼らが立ち向かっていった呪いというすさまじい”闇”は、いまもこの現代にどす黒くはびこっている”闇”と、きっと同じものだと思えるからだ。

わたしたちが気づかぬうちに静かに歪めてしまった歴史、まちがえてしまった価値観。
それらを切り崩し、新しい未来を新しい価値を生み出していけるだろう、少年たちに。

わたしたちは期待してもいいのだろう。少年たちの瞳はちゃんと、あしたを見すえている。
そう信じられる物語だ。

Posted by K@zumi

残り全部バケーション

残り全部バケーション
伊坂 幸太郎
集英社
売り上げランキング: 37,245

人生の<小さな奇跡>の物語
夫の浮気が原因で離婚する夫婦と、その一人娘。ひょんなことから、「家族解散前の思い出」として〈岡田〉と名乗る男とドライブすることに──(第一章「残り全部バケーション」)他、五章構成の連作集。


この世に、友だちも知り合いも誰もいなくなって、たとえひとりぼっちになったとしても
彼の本さえあれば、それでいいと。
そう心の底から信じられるほど、読了後のカタルシスには破壊力があります。

陳腐な云い方をしてしまうと ”人生はそうすてたもんじゃない” ということが
からからのハートに甘く溶けるように沁みこんでいく、とびきりスマートで抱きしめたいほどコミカルで
ちょっぴり淋しくてじんじんと愛おしい奇跡のようなストーリー。

オトギ噺の魔法はしょせん気休めでしかないのかもしれなくても
その気休めこそが人を赦したり癒したり、少しくらいは生きてく糧になるわけじゃないですか。
そうだよね? 春?(『重力ピエロ』)

過去のことばっかり見てると、意味ないですよ。車だって、ずっとバックミラー見てたら、危ないじゃないですか。事故りますよ。進行方向をしっかり見て、運転しないと。来た道なんて、時々確認するくらいがちょうどいいですよ。 (本文「残り全部バケーション」より)


そうしてわたしは、また彼に恋をする。
くり返しくり返し、幼いわたしの嘆きや惑いや願いを見透かすような、その鮮やかな文章に恋をする。
そして彼からはけっして逃れられないことを、くり返しくり返し思い知るのです。

Posted by K@zumi